2009年12月25日(Fri) 感謝しても感謝しても足らない。
今の時代,歯科医師は人気のない職業の一つです。コンビニより多いと言われる歯科医院の数。診療報酬は医科歯科格差といって,医科に比べて歯科の方が異常に低く設定されています。そのためワーキングプア歯科医と呼ばれるほど貧乏な歯科医師や,朝から夜中まで働き続けの挙句に体をこわす歯科医師などがごろごろしています。大学受験で兵庫医大にも合格していた私は,第1に親の職業を継ぐために,第2に親に経済的負担をかけたくないとの思いから国立の岡山大学歯学部に進学しましが,医師でなく歯科医師になった事を後悔することもありました。
父親は,亡くなった日の夜6時半まで診療をしており,死んでしまうわずか2時間前まで患者さんを診ていたことになります。この日も自分を慕って来てくれる患者さんが新しい入れ歯でお正月を迎えられるようにと,高齢をおして夜遅くまで診療していたそうです。亡くなった翌朝,実家の2階の診療室では何も知らないスタッフがいつものように診療の準備をしていました。予約の患者さんも続々と来院されました。昨夜の出来事を知って泣き崩れるスタッフに“親父が一生懸命削って,型をとって出来上がったかぶせや入れ歯を患者さんにセットしよう。親父の患者さんを最後まで診よう。それがせめて我々にできる恩返しや。”と言い,兄弟3人そろって白衣に袖を通しました。
79歳の老歯科医の仕事とは思えない,ひょっとしたら,いや,まぎれもなく私より精密な作業がしてあります。かぶせも入れ歯も全く調整する必要なしに見事に入ります。父親が昨日まで使っていたルーペを借りて使ってみたのですが,旧式でとても使いにくいものでした。こんな見えにくいルーペでも我慢して目をこらしながら,患者さんのために,そして私達家族のために,何十年も,ひとつひとつコツコツと歯を治療し続けてくれた父親の事を思うと涙が止まらなくなってしまいました。
もう2度と歯科医師になったこと,両親に歯科医師にしてもらったことを後悔することはないでしょう。我々兄弟3人共歯科医師にならせてもらって,子供全員が親父の職業を継いでいるなんて,こんなに誇らしいことはないと思います。この経験をするまでは“私の子供には歯科以外の職業に就いてほしい”と考えていましたが,今はもし彼女,彼らが私達兄弟同様,親の姿を見て歯科医師になりたいと思ってくれたら喜んで背中を押してやりたいと思っています。
親の苦労に比べたら自分のしている事などぬるま湯の中。文句を言う前にもっと頑張れ,裕和!