2005年8月9日(Tue) 私が、予防歯科に真剣に取り組んだ理由

私は、昭和37年に、兵庫県の田舎町で 歯科医師の次男 として生まれました。そこは、鉄道もなく林業や農業が主な産業の町です。両親とも、しつけに厳しく、買い食いなどは論外でした。

しかし、私が子供の頃、男の子たちは駄菓子屋で体に悪そうなお菓子や三角ジュースなどを買い、山の中に作った秘密基地に行って、遊んだり食べたりしていました。両親は知りませんでしたが、私もその一人でした。当時の子どもたちの口の中は虫歯の洪水で、 学校の歯科検診でも虫歯があってあたりまえでした。

ある日、小学校の低学年のとき、学校で歯科検診があって、歯医者の先生が私の口の中を見て、 “君は歯医者の子やろ…。 ”とおっしゃったのを今でも覚えています。そうです。私の歯は虫歯でボロボロだったのです。その当時、母親は “歯のことは歯科医である父親に任せておけば大丈夫。”と安心していたそうです。父親の方は患者さんの治療に忙しく自分の子供の歯の治療どころではなかったそうです。私はしょっちゅう歯が痛くて辛かった事を覚えています。それでも“お父さんにちゃんと直してもらうから大丈夫だ。”と、心から思っていました。でも、 この時に虫歯菌が口の中にすっかり住みついてしまっていた のです。

小学校を卒業して、高砂にある中高一貫教育の男子校の寮に入りました。中学生と言ってもまだ子供です。親元を離れて暮らす寂しさをまぎらすために寝る前にチョコレートやお菓子を食べたり、 きちんと歯磨きをせずに寝てしまったりすることもありました。小学生の頃から住みついている虫歯菌は大喜びです。

そして、 何本かの永久歯を虫歯にしてしまった のです。

大学の歯学部に入ってから歯の大切さに目覚め、大学病院で当時の最先端の技術を駆使して完全に治療してもらいました。

しかし、何年かして再治療が必要な歯ができてきました。削って詰めたりかぶせたりしたところがまた悪くなり、削っていない無垢の歯は全く悪くならないのです。

そこで初めて気がつきました。 “歯の治療と言っても、所詮人間がすること。金属やプラスチックをボンドで歯にくっつけてみても一生持つわけがない。両親からもらったきれいな歯、神様が作ってくれたきれいな歯、これを虫歯にせずに維持することがいかに大切か。” ということに。

2004年に 予防歯科の世界的権威アクセルソン教授が来日され、私を含め多くの歯科医師や歯科衛生士が講演会に参加しました。その時、教授が、“この中で、過去に虫歯になったことのない人は何人ぐらいいますか。”と質問されました。驚くことに、一人もいなかったのです。私はその時、 “私と同様に、過去に虫歯で苦労した歯科医師や歯科衛生士ほど、自分のような経験を患者さんにさせたくないと思い、真剣に予防歯科に取り組むのだなと感じました。

近年、予防歯科学は急速に進歩しました。 真剣に取り組めば虫歯は完全に予防できる時代が来ています。

両親からもらったきれいな歯、神様が作ってくれたきれいな歯、これを大切にして、一生自分の歯でおいしく楽しく食べましょう。